ピアノの貴公子、ヤン・ラングレンのニューアルバムです。
若手と思っていたらもう38歳、いつの間にか中堅になっていました。彼の瑞々しいデビューはまだ記憶に新しいところです。
初期の頃のプレイはどことなく線の細さも感じましたが、逆にそのナイーブさが彼の魅力でもありました。また歯切れのよい明るい透明感のあるタッチも魅力です。
今回のアルバムは意表をついた内容のものでした。作曲家マット・デニスへのトリビュートアルバムです。古いジャズ・ファンならマット・デニスといえば「ANGEL EYES」がすぐに思い浮かぶでしょう。フランク・シナトラやドーシー楽団に曲を提供し、スタンダードナンバーとなったものもあります。
彼の作曲は可憐でメロディックなものが多く、彼自身が歌ったアルバムでは粋な歌声を聴かせてくれました。
今回のヤン・ラングレンのプレイですが、彼のスタンダードナンバーの解釈のうまさに脱帽です。最近のプレーヤーのスタンダードはどこかよそよそしいものもあり僕はあまり好きでは無いのですが、彼のメロディセンスとマット・デニスの粋な節回しが微妙にシンクロしてすばらしい演奏になりました。
それから彼のプレイスタイルが実にオーソドックスなものになっていてびっくりしました。50年代のピアニストといってもわからないと思います。
1曲目のジャンプした演奏からウキウキとした気分にさせてくれます。実はこの1曲目を聴いた瞬間レコメンド決定だったのです。
フランク・シナトラの名唱で有名な「コートにすみれを」のロマンティシズム、「EVERYTHING HAPPENS TO ME」のしっとりとしたリリシズム、「ANGEL EYES」でのブルーな味わい、などなどバラードプレイヤー、ヤン・ラングレンの実力を見せてくれます。
なおソロ・ピアノで演奏される「EVERYTHING HAPPENS TO ME」「SPRING IS'T SPRING ANYMORE」の2曲の可憐なプレイも印象的でした。
ラングレンは比較的ストレートに原曲のメロディをプレイしながら様々なテクニックを交えてマット・デニスの曲の髄を引き出していきます。アップテンポの曲でもどこかに原曲のイメージを残しつつ巧みなフェイクで僕らをマット・デニスの粋な世界に誘い込んでくれます。
そしてヨーロッパのピアニストに共通のクラシックの伝統に根差したピアニスティックなプレイも特筆されるでしょう。アメリカの黒人プレーヤーの持つ独特のリズム感とは違ったさらっとしたプレイもすがすがしさを感じます。
またジョー・ラバーベラのドラミングもラングレンのピアノに花を添えています。
ぜひ、ぜひ聴いてください。
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