エラとジョー・パスの二人で作り上げた味わい深いバラード集。
エラ・フィッツジェラルド(vo)1918年4月25日ロサンジェルス生まれ。
ハーレムのアポロ劇場でのアマチュア・コンテスト優勝を経てプロでビュー。チック・ウェッブ楽団での「ア・ティスケット・ア・タスケット」でのヒットによってスターとなる。その後フリーとなりノーマン・グランツのJATPに参加。ヴァーヴに「エラ・イン・ベルリン」などのヒットアルバムを吹き込む。各種のジャズ・フェスティバルで人気を博し、ジャズのファースと・レディと呼ばれる。1996年6月15日ビバリーヒルズで死去。
ジャズのファースト・レディ、エラ・フィッツジェラルド晩年の傑作です。
エラ・フィッツジェラルドというとすぐにあのスキャットを思い浮かべると思います。ジャズ・フェスでは常に人気の的です。
特に「エラ・イン・ベルリン」のヒットによって余計その印象をすり込まれたファンも多いと思います。たしかに実に楽しくショーマンシップに溢れたエラのステージングは素晴らしいです。ただ時にオーバー・アクションになることもありますが。
しかしエラの本質はバラードにあると僕は思っています。それは彼女のきれいで可憐な声質にもよりますが、僕がその思いを強くしたのは「エラ・アンド・ルイ」という日本編集の3枚組のアルバムを聴いてからです。
この中の彼女のフューチャード・ナンバー「ジーズ・フーリッシュ・シングス」の出来があまりに素晴らしかったからです。
恋人の色々なしぐさを思い出しながら彼との思い出にふけるという大人のラブ・ソングを、エラはストレートではあるが情感を込めて歌っていました。
この歌から僕はエラのバラードソングを中心に聴くようになりました。
さて今回のアルバムですがそのエラが全曲バラードを、しかもギターの伴奏のみで歌っています。伴奏は名手ジョー・パスです。
その昔ピアノのエリス・ラーキンスと組んだ「ソングス・イン・ア・メロー・ムード」という素晴らしいアルバムもありました。
ジョー・パスは曲によってエレキ・ギターと生ギターを使い分けているようです。
実はエラ・フィッツジェラルド72年に眼病のため一時引退状態にあり7月のカーネギー・ホールでのコンサートで劇的な復帰を飾ったばかりでありました。
このアルバムはその直後の8月に録音されたようです。
全盛期のエラと比較すれば高音ののびは今一つ、多少苦しい様子もみえます。
ですのでバラードに限定してギターの伴奏のみという、ノーマン・グランツのプロデュースの勝利です。
でも逆に言えば、ギターの伴奏のみということは、歌手の実力が否応なく露呈するということです。その意味でこのようなフォーマットは歌手にとって大変難しいものです。
さすがエラ・フィッツジェラルド、情感を巧みにコントロールしながらパスのギターとすばらしいコラボレートを繰り広げてくれます。
普段はアップテンポの曲もテンポを落としてじっくりと歌い込んでいます。一時引退状態にあったエラが再び歌える喜びを噛みしめながら、一つ一つの曲を大事に大事にして歌っている様子が見えてくる、そんな気持ちにさせられます。
またジョー・パスの素晴らしいバッキングも見逃せません。エラの気持ちをくみ取って、彼女を影に日なたに支えています。そして簡潔にまとめられたパスのソロが光っています。
晩年の傑作アルバムとして「カーネギー」の2枚組を押す方もいますが、僕はこの「TAKE LOVE EASY」をベストにあげたいと思います。
なおこのアルバム珍しくモノラルで録音されているようです。
あまり音量を上げずじっくりと聴いて欲しいと思います。
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